侵食しているのか、されているのか。
俺のテリトリーはなくなり彼女もまた俺によって自らのテリトリーをなくした。
むき出しの心は強く傷つけあって、傷を舐めあい続ける。
こ ん な は ず じ ゃ な か っ た 。
ストーカーとは愛憎の心の究極の形だと思う。
彼女の強力な愛と強い生き様は美しく、時に反動がありとても醜い。
覚えているだろうか?ダブルストーカーの存在を。
そのうちの一人が家に押しかける事件がおきた。
刑期を終えて出てきて真っ直ぐ向かってきたそうだ。
3重の意味で死の恐怖をもつ彼女は俺に電話で助けを求めてきた。
とりあえず、警察へ連絡し、暴れたので公務執行妨害と家宅不法侵入の罪で引っ張られていった。
後で会うことになるのだが、顔はそこそこで背丈は高く、筋肉もスポーツマン程度にはある男だ。
悲しみが、呪いに似た愛が俺を包む。
何故ここまでヒトを愛することができるのか。
理解が出来ないモノを化け物と言うが、確かにその通りだ。
死んでいく心の細胞と殺していく心の細胞が拮抗していって。
カケラカケラをひとつずつ救って欲しいと願い、だが、それは叶わない夢。
喧嘩と平穏と甘美な毎日を送りながら。
このまま、ずるずると生活していくんだろうと観念していた。
しかし、氷が溶けるように、少しずつ、破綻していった。
亀裂が入った時点でわかっていたことだったが、先延ばしにしつづけてきた。
現実なんてものは見たくなかったからだ。
少しずつ病んでいく心臓を見てみぬ振りをしながら、元気な声が明日も響くと信じて・・・。
いや。信じるしかなかった。信じたくなかった。
ネット上のストーカーはふっと姿を消した。
恐らく飽きたのか、それとも、他に好きなヒトができたか。
まぁ、どちらにせよひとつの懸念が減ったことは喜ぶべきか。
あとヒトリ。
奴は怖い。殺るか殺られるかの世界で生きている目を見たことがあるかい?
彼はそんな目をしていた。
そんな奴と対峙しなくてはならない。
何故なんていってられない。もう、ここまできたら・・・。
奴は何でもやる。俺の命も狙われている。
奴の思考回路はシンプルだ。
俺を殺せば彼女は自分の元へ戻ってくる・・・。
ありえない。だが、ありえないことほどありえる。
事実は小説よりも奇なりとはよくいったものだ。
勿論、俺は全力を持って対抗した。
彼女を守りながらも自分も守らなければならない。
手段なんてそれこそ選んでいられない。
心臓が
・・・・・・・・そう。
心臓に負担を相当かけるものなのだ。
重圧にしろ恐怖にしろ死への恐怖にしろ・・・。
死が身近にないヒトにはわかるまい。
明日には心停止して命がなくなってしまうという状況下を。
全てが。
何もかもが重なって。
それでも強く生きようとして。
心労が祟った。
楽に生きることが何故出来なかったのか・・・。
単純な事だ。責任感の強さ故、自分が家庭を引っ張っているという劣等感から
子供のころから頑張り続けていたのだ。
俺はナメていた。命をかけて生きているヒトの情熱を。
普通のヒトが蝋燭なら、彼女はオイルで塗れた蝋燭のようなものだった。
知らない。知らない。知ったことか。知るはずが無い。
隠された真実。どこかにあった真実。
いまさらの話だ。
話を戻そう。
ストーカーはしつこく付きまとった。
俺と彼女に。だが、彼女の責任感の強さは異常すぎた。
俺と付き合ったことで迷惑をかけていると自責しつづけていた。
そんなことないといい続けても無駄だった。
頑固なのだ。感情の面においては、とにかく。
だから。
だから。
だ か ら 。
俺は。
任せてしまった。
甘えてしまった。
償え切れぬ罪。
戻れぬ過去。
続く。
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