小説 ３

社会人となった僕は一人称をプライベートでは俺になり
仕事の上では私と使い分けるようになった。
俺のついた仕事は下種なモノで人様に誇れるような仕事ではない。
ただどこの世界にも喰いモノと喰われるモノで分かれているだけだ・・・と
大人になっても変わらないその世界に飽いていた。
夢や希望などを背負って出てくる若い青年達の大半は
夢破れ、希望を失う道を往く事になる。
心が弱ければ弱いほど、誘惑に負け、心の傷を癒す為に金を使い、
いずれは犯罪に走るモノもいれば膨大な借金を抱えたまま情けない帰郷をするモノもいる。
毎日毎日それが繰り返し行われておりそんな中で成功した人なんて
宝くじで一等が当たるようなものだと思い、俺は安月給でそれなりに過ごしていた。

俺の趣味は人の心を喰う事だが、身近にいる人間の心を喰う事はなかなかに難しい。
距離感が近すぎると警戒されるのだ。特に俺のような下種な人間は仮面を被っていても
隠しきれない部分があるのだろう。それに俺としても身近な人間を喰う事によって
余計な騒ぎを引き起こしたくないのが本音である。
つまり俺の趣味は自然と昔からの趣味からシフトした形となり毎晩ネットをやっているのだ。
そして同い年の少女・・・と言った方がいいぐらいの趣味をした女性と出会った。
彼女に近づくのは簡単だった。ネットの世界では現実の痛みがない。
よって話し相手ぐらいにはなるだろう程度の関係ならすぐになれる。
悩みはありきたりの彼氏とうまく言ってない云々だった。
少し違うのが遠距離恋愛な上、自分は病気持ちで中々会えず、
彼氏は彼氏で浮気性があるらしいが咎めるには自分の病気があるからといった
そこそこ複雑な事情があった。
俺は直感でわかった。別れたいけど別れたら独りになってしまう。
つまり代用品さえ見つかるキッカケが欲しいんだな、と。
出なけりゃこんな話を俺を初めとしていろんな奴に話す訳がない。
彼女の名誉の為に言っておくが聞き出すのにはかなり苦労した。
後々で聞いた話だが男で苦労するのは2度目らしい。
そりゃあ警戒心もでてくるというものだ。
苦労といっても毎日赤ん坊をタオルケットで包むようにやさしく接していただけだが。
俺にしてみれば「お前は悪くないんだよ」と洗脳させれば問題ない。
そしてようやく話を切り出してくれたというわけだ。

続く。