小説 ４

幼少時代のことを少し語ろう。
俺には弟が一人いる。生まれの差は1.5歳であり微妙な差の関係であった。
今にして思えば２つ違えばまた違った思いを両親も弟もそして俺も感じたことだろう。
この半年の差が全ての関係をずらしていったのだ。
両親は小学2年まで俺達を完全に平等に扱い続けた。
小遣いもプレゼントも寝る時間も寝る場所も双子のように扱った。
俺達は年の離れた兄弟という関係ながら双生児のような感覚を共有していた。
俺だけではなく弟もソレは同じで二人はいつも一緒だった。
何故ならば。
両親の関係はお世辞にも上手く言っておらず俺たちは眠る時間になる度に
ふすま一枚先で喧嘩する両親に怯えていたからだ。
そして誕生日やクリスマスや正月が近づくと、今年は何だろうね
いくらくれるのかな？と語り合っていたものだ。

だが、それは唐突に終わりを告げる。
小学2年のときに父の実家へ引っ越すことになったのだ。
理由は今でも知らない。父は何も語ろうとしないからだ。
ともかく当時の俺に反論する権利などなくただ流されるまま引っ越し、新天地で過ごすこととなった。
差はそこで生まれた。
弟は小１ということもあり、周りの皆が顔見知りという訳ではなく
友達を作ることは容易だったようだが、俺の場合は2年から途中入りということもあり
孤立した学園生活を送らざるを得なかった。
お世辞にも品のある学校とは言えず俺は苛めの格好の餌食となるのに時間はかからなかった。
祖母と母から受け継いだであろう気の強さと負けず嫌いさもあったが
同時に勝てないモノには勝てないという打算もあり俺が取った行動は、
相手の親に苦情を言いにいくことだった。だがそんな事では苛めをエスカレートさせるだけだった。
ある日、登校すると机がなくなっていた。お前はココに存在してはならないんだといわんばかりに。
クスクスと笑う声、そして苛めの主犯であるガキ大将の大きな笑い声。
そして　お前邪魔だから消えろよ　と、一言。
俺は怒りを抑えきれず、かといって暴挙に打ってでる訳でもなく
青い炎を燃やしながら冷静にロッカーへカッターナイフを取り出し、ガキ大将に向かって切り付けた。
大した傷ではなかったそうだが、一度で良い。試してみてほしい。
少しでも肉にめり込むようにナイフで刺される痛みということがよくわかるはずだ。
あの時の俺は狂気に満ちていたのだろう。どうなるのかわかっていて冷静に刺したのだから。
上がる悲鳴、先生に取り押さえられる俺、泣き崩れるガキ大将。
そうして苛めはなくなり俺はそこから1年間、腫れ物のような扱いをされ空気のような存在になった。
今は知らないが当時の小学校では2年に一度クラス替えがある。
4年になりクラス替えが行われ、俺は初めて空気ではなくなった。
つまり、友達ができたということである。

空気だった1年とちょっとの間、家庭でも差は起こっていた。
まず祖母と母の関係、また相変わらず父と母の関係は上手くいっておらず
2世帯住宅のような感じで生活していたのだが、父も母も露骨に弟を可愛がり始めた。
理由は簡単だ。俺が祖母に懐いたからである。
それと、もうひとつ理由がある。当時の俺は勉強だけはよくできた。
テストでは90点を下回ったことはなく母もそれだけは認めていたようで
俺には必死になって勉強させようとしていた。
学校から帰り、食事を終わらせ、18時から20時までの間、2時間勉強させられた。
弟は俺と正反対で体育は得意だが勉強はからっきし駄目だった。
なので結果的に弟に勉強を期待せず父と母は弟を自由にさせた。
勉強が出来て、通知表で全てトップを取っても母にとってはそれが当たり前の事であり
結果を褒めてくれるのは祖母だけだったのだ。
両親と弟との溝は深まっていく。俺は勉強が終わると結果を見せ、
間違いがあると叱られ20時には寝ろと言われ好きなことができなかった。
俺が21時ごろ起きていると殴られたが弟にはそういうことはなかった。
歪んでいく感情は求める愛情から憎悪に変わり、悪意を持って接するようになるのは時間の問題だった。

小学4年になり、俺にも友達できてそれなりに楽しい学生生活を送れるようになった。
先生らの計らいか、苛めをしていた連中とはクラスが離れていたのもあるだろう。
カードダ○やPPカー○を集めて交換し合ったりジャ○プの内容を語り合ったり
一回50円の格闘ゲームで対戦したり、サッカーやバスケを楽しんだ。充実した日々だったと思う。
空気ではない、自由を知った俺。つまり我侭を覚えたのだ。
そこで初めて両親への悪意をもって接するようになった。
勉強も何もかもどうでもよくなった。両親の愛情を受けるためにしてきたことは全てを否定した。
小５の頃にはタバコを吸い、酒を飲み、窃盗を繰り返す日々が続く。
歪んだ人間には歪んだ人間しか集まらないモノで世間一般的にいう「不良」グループに入っていた。
皆、親から愛情を受けていない子供たちだった。
ひとりは親から捨てられ施設に入れられ嫌々親戚が引き取った子。
ひとりは母をなくし親がアル中で父からの暴力に耐える子。
ひとりは背が低いということだけで苛められ、親からは過剰なまでの愛を貰い重荷になった子。
それぞれ事情はあるがとにかく歪んだ人間が集まって傷をなめあうように、
憎しみをどこかにぶつけるかのように正しい行動を忌み嫌い、してはならないことをし続けた。

小６の頃にはすっかり学校など行く気などなく、
皆で集まってはタバコをふかしながら麻雀をしたりゲームをしていた。
朝だけが億劫だった。父は何も言わないからどうでもよかったが
母が口うるさく俺の行動に文句をつけてきた。
学校へは行かないというと直ぐに殴られた。
祖母が庇ってくれるが我慢にも限界があり耐える所まで耐えて・・・。
相変わらず布団から俺を引きずり出して学校へ連れて行こうとする母。
行きたくないと言う俺、殴られた瞬間、キレて殴り返してやった。
その日の夜、母は父と大喧嘩をし、家を出て行った。つまりは離婚である。
母は弟を連れて行きたがっていたが父が手放さなかった。
理由は当然知る由もない。どうでもいい。
口うるさい疫病神が消えた。そう思っただけだった。
だが、弟にとっては離婚はとても深い傷となったようだ。
俺は弟ではないからどのように思っているのかは知らないが、泣いていた事だけは覚えている。

続く。